Ikegami TECH
2026.06.10
Ikegami TECH Vol.56 FPUの小型軽量化技術 ~機動性と信頼性の実現のために~ Part.1

報道やスポーツ中継の番組制作現場では、「FPU」と呼ばれる無線装置が使われています。例えば災害や事件・事故が起きると、中継車やヘリコプターが現場に駆けつけ、撮影した映像をリアルタイムで視聴者に伝えます。その最前線で使われるのが、FPU回線による無線伝送です(図1)。現場に最も近いところで使われるため、持ち運びしやすく即座に使える「機動性」と、放送の品質を確保した「信頼性」が求められます。その小型軽量化を実現するための鍵となる、解決すべき課題について2回に分けて解説します。
図1 放送中継システムにおけるFPU回線
■干渉と輻射
機動性を高めるための条件のひとつに、装置の小型軽量化があります。しかし、狭いスペースに多くの電子回路を高密度実装すると、必ずと言ってよいほど「干渉」という問題が起こります。機器の内部で、ある回路の信号が別の回路に飛び込み、妨害を与えるのです。デジタル回路からアナログ回路への干渉や、スイッチング電源の雑音による影響などが代表的なものです。特に無線装置では高い周波数の信号を扱うため、この問題が起こりやすいのです。干渉は、伝送品質の低下をはじめ、多くの問題を引き起こします。
また、機器の外部に不要な信号を出す「輻射(ふくしゃ)」も問題となります。例えば送信機では、情報を電波に乗せるための変調波は、はじめに低い周波数で生成してから、局部発振信号と呼ばれる高周波信号と掛け合わせることで、より高い周波数に変換しています。もしこの局部発振信号が漏れて、送信波の一部として発射されてしまったらどうなるでしょうか? 他の無線局に対して、妨害を与えてしまうかも知れません。これは「スプリアス発射」と呼ばれ、国際的には無線通信規則(RR: Radio Regulations)で、日本国内では電波法およびその関係省令等で厳しく規制されています。ほかにも、機器から発生する電磁雑音の輻射(EMI)や、外部からの電磁雑音に対する耐性(EMS)に関する規格への適合を求められることがあります。国際的にはCISPR規格等が、日本国内ではVCCI規格がそれに相当します。
ここで、装置を構成している回路基板について考えてみましょう。干渉を防ぐには、干渉しやすい回路を物理的に離して、互いが干渉し難くすることが第一です。しかし装置を小型化するほど、否が応でも回路同士の距離は近づかざるを得ません。そこで、干渉を防ぎたい回路の間に金属の仕切りを入れて、電磁的な結合を低減させます(図2)。さらにプリント基板全体を、金属のシールドケースとカバーで覆って遮蔽することで、外部からの干渉と外部への輻射を防ぎます(図3)。

図2 仕切りによる干渉の低減

図3 シールドケースによる遮蔽
それでも、干渉や輻射を防げないことがあります。シールドケースとカバーの間に僅かな隙間があると、その部分の導電性が低下して遮蔽性能が劣化することがあります。また、カバー固定ビスの間隔が信号の1/2波長に近いと、スロットアンテナのように振る舞って共振が起こり、漏れが大きくなることがあります。これを防ぐには、ビスの間隔を1/2波長より十分に小さくします。なお不足するなら、導電性ガスケットを挟んで隙間を塞ぎます。しかし、遮蔽性能を求めてケースを立派にするほど、確実に大きさや重さは増えるため、小型軽量化に逆行してしまいます。また、製造コストも上昇します。これらのバランスをどう取るかは、設計者の腕の見せ所となります。
次に、装置全体に目を向けてみましょう。多くの装置では、自然空冷や強制空冷により機器内部の温度上昇を抑えています。ところがそのための通気口が、干渉や輻射の「窓」になってしまうことがあります。これを防ぐには、通気口をひとつの大きい穴ではなく、複数の小さい穴にしたり、網を装着します。先ほどのシールドケースのビス間隔と同じく、穴や網目の大きさを遮蔽したい信号の波長に対して十分に小さくすると(目安として1/10~1/20波長)、遮蔽板で塞いだのと同じような効果が得られるのです。材質としては、電界を遮るには導電率の高い銅やアルミニウムを、磁界を遮るには透磁率の高い鉄やパーマロイを使います。
これを使った身近な例が、2.45GHzのマイクロ波を照射して食品を加熱する電子レンジです。温めている最中のお弁当を、ガラス窓越しに覗き込んでも顔が温められないのは何故でしょうか? ガラスはマイクロ波を透過しますが、そこに装着された金属の網がマイクロ波を遮蔽しているからです。光もマイクロ波も、電磁波の一種です。この網の穴は1~2mmですので、波長380~780nmの可視光は透過しますが、波長12.2cmのマイクロ波は内部では反射し、外部へは遮蔽されます。
これと同じ理屈で、通風口に網を装着することで、分子の大きさ約0.36nmの空気を通しながら、電磁波を遮ります。網目が細かいほど高い周波数の干渉や輻射を防げますが、冷却風の流れは妨げやすくなります。両者の条件を考えながら、電磁遮蔽と熱設計が両立する最良ポイントを探っていきます。電磁波と熱なんて何の関係もないように見えて、機器設計の視点では実は深く関わり合っているのです。
次回は、そのもうひとつの課題である「発熱」について解説します。

