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Ikegami TECH

2024.06.12

Ikegami TECH vol.32 画像の鮮明化 番外編 ~Retinex理論による画像鮮明化~

画像の鮮明化 番外編 ~Retinex理論による画像鮮明化~

前回まで、2回にわたりコントラスト改善による画像鮮明化技術について解説しました。今回は、番外編として、人間の視覚特性に基づいたRetinex(レティネックス)理論による画像鮮明化を紹介します。
まずは、Retinex理論の基となった人間の視覚系の現象である「明るさの恒常性と対比効果」について簡単に説明します。

【明るさの恒常性と対比効果】

図1の画像中の四角で囲んだ領域AとBの明るさを比較してみましょう。
領域Aは影で少し暗く、領域Bは光があたり空の反射もあり明るくなっているのがわかります。この感覚は、右側に示されている各領域の明るさ(濃度値)のヒストグラムと平均値とも一致しています。
では、各領域の外壁素材(物体)そのものの明るさは、どのように感じているのでしょうか。領域Aは白っぽい素材で明るい、領域Bは黒っぽい素材で暗い、と感じていると思います。
これは、人間の視覚系が物体の明るさ(壁の素材の明度)を、照明光の強度の変化に惑わされること無く、物体から反射されてくる光(反射率成分)で知覚しているから、と言われています。この現象のことを「明るさの恒常性」と呼んでいます。

図1 明るさの恒常性

図2 明暗対比

次に図2を見てみましょう。
左右の図を見比べると、中心のグレーは同じ明るさにもかかわらず、背景の明るさの違いで、左側が明るく、右側が暗く感じると思います。人間は物体の明るさを物理的(絶対的)な明るさで判断しているのではなく、隣接している周囲の明るさの比で知覚しています。このように、周囲の明るさの差によって同じ明るさの物体が異なる明るさに見える現象を「明るさの対比効果」(明度対比)と呼んでいます。

これらのことから、人間の視覚系は物体の明るさ(素材の明度)を、物理的な照明光の光量(強度)に惑わされること無く、周囲の相対的な明るさの比(反射率成分の比)に依存して知覚していると言えます。
この人間の視覚系を物理的にモデル化(数式として表現)したものがRetinex理論になります。

【Retinex理論による人間の知覚情報】

Retinex理論を用いると、人間が知覚する反射率成分Rは次のように近似されます。

ここで、「人間が知覚する明るさの感覚量は光の物理的な刺激量の対数に比例する」(ウェバー・フェヒナーの法則)ことが知られていますので、「人間が知覚する画像情報(感覚量)E」は (1)式の両辺の対数を取ったもので求めることができます。
具体的な画像の計算イメージを次に示します。なお、照明光成分Lの画像は、近似的に抽出する際に用いられる、入力画像にローパスフィルタをかける手法で求められています。

【Retinex理論による改善例】

Retinex理論(以降Retinex)による改善例を、前回のヒストグラム平坦化と並べて示します。
図4で、画像の右下や玄関の影で見えにくいところに注目すると、Retinexではっきりと見えているのに対し、ヒストグラム平坦化では原画像とあまり変化はありません。これは、原画像の右に示すヒストグラムで累積画素数が比較的直線上に伸びていることからわかるように、原画像がヒストグラム平坦化後の画像に近いことから改善効果が見られなかったと言えます。

図4 ヒストグラム平坦化とRetinex(1)

図5は逆光で見えにくい画像例になります。ヒストグラム平坦化と効果を比較したとき、両者とも手前の逆光で影になった領域の視認性は改善されています。しかし、背景のビルの輪郭や細かなディテールに注目すると、Retinexではくっきりと出ていますが、ヒストグラム平坦化ではコントラストも薄く潰れてしまっているのがわかります。

図5 ヒストグラム平坦化とRetinex(2)

今回は、人間の視覚特性に基づいたRetinex理論による不鮮明な画像の改善について解説しました。
Retinexはヒストグラム平坦化と並んで画像に埋もれた対象の視認性を改善する代表的な技術の一つです。人間の知覚に近い自然な改善が期待できる技術として、監視や医療分野を中心に活用が進んでいます。

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