Ikegami TECH
2026.07.10
Ikegami TECH Vol.57 FPUの小型軽量化技術 ~機動性と信頼性の実現のために~ Part.2

前回は、FPUの小型軽量化における課題のひとつ、「干渉と輻射」について解説しました。今回は、もうひとつの課題である「発熱」について解説します。
発熱
小型軽量化で悩まされる大きな問題に、「発熱」があります。FPUは、強烈な直射日光が照りつける真夏のスタジアムなど、屋外のあらゆる過酷な環境下でも、安定して映像を伝送する信頼性が求められます。デバイスの種類にもよりますが、一般にICなどの半導体は、周囲温度が高くなるほど消費電力が増加する傾向にあります。このため、消費電力の増加が更なる発熱を招くという、悪循環に陥る可能性があるのです。これは「熱暴走」と呼ばれる現象で、デバイスに致命的なダメージを与えかねず、絶対に避けなければなりません。装置が高い信頼性で安定して動作し続けるためには、発熱問題の解決は必須といえます。
発熱を抑えるために有効な対策は、第一に消費電力を減らすことです。とはいえ、それには限界があるため、如何に無駄な熱を発生させないかを併せて考えます。例えばスイッチング電源では、半導体からコンデンサやインダクタに至るまで、電力損失の小さいデバイスを選んで変換効率を高めます。何故なら、損失となる電気エネルギーは、熱エネルギーに変換されるからです。さらに、スイッチング周波数や負荷特性との関係などの動作条件を調整して、より損失が少なくなるように最適化します。このほか、SHF帯電力増幅器では「歪み補償技術」との合わせ技を使うこともあります。これには様々な方式がありますが、例えば電力増幅器で加わる歪みをあらかじめ測定しておき、これをもとに計算した逆の歪みを元の信号に加えておくことで、歪み成分をキャンセルする方法があります。一般に、歪みの小さい電力増幅器には大きな消費電力が必要となりますが、この技術を使うことにより、小さな消費電力でも歪みを小さく抑えることができるのです。
もうひとつ重要なのが、構造面からのアプローチです。プリント基板に実装されたIC等の発熱源の熱は、基板の銅箔への「熱伝導」と、デバイス本体や放熱器を介した「対流」や「放射」により、空気中へ逃がされます(図1)。

図1 発熱源からの熱伝導・対流・放射
放熱の効率は、放熱器や筐体(機器の外箱)への熱伝導率や熱抵抗のほか、放熱器の大きさ、特に表面積に大きく依存します。つまり装置の小型軽量化を目指すほど、処理できる熱の量は必然的に減ってしまうのです。だからと言って、放熱フィンの数や大きさを増やすと表面積も増えますが、放熱フィンの間隔が狭くなってしまうと、対流が妨げられて却って放熱効率が低下してしまいます。最適なフィンの間隔は、自然空冷と強制空冷では異なり、同じ強制空冷でもその「風速」によって異なります。小型化により機器内部の実装密度が高くなるほど、冷却風の通り道は狭くなります。そこで必要な風速を得るためには、空気を押す力である「静圧」がより大きく必要となります。すると必然的に、冷却ファンは大きくて重いものが必要となり、消費電力も増えてしまいます。
また、FPUは屋外で使用されるため、多少の雨の中でも運用できる「防滴構造」が求められます。そのため屋内機器のように、前面から吸気して背面から排気するような単純な空冷構造を採ることは、まず困難です。水滴は取り込まずに、より効率的に機器内部を冷却するには、とても多くの工夫が必要となります。発熱源の分布と通風経路、放熱器と冷却ファン、風速と静圧、プッシュ型かプル型かなど、様々な視点から熱設計を行い、シミュレーションと実測を重ねて、その最適解を導き出していきます(図2)。

図2 サーモグラフィによる装置の温度測定(PP-90型 超小型FPU送信機)
実際の製品づくりで難しいのは、現場の運用面からも様々な制約を受けることです。例えば、装置の色です。屋外での運用で直射日光が当たる環境では、日射熱を吸収しやすい黒色よりも、反射しやすい白色の方が有利とされます。しかしワイヤレスカメラ運用では、画面の中に映り込んでも目立たないように、黒色系が好まれることが多いのです。
また、ゴルフ中継や音楽番組での運用では静寂性が求められるため、冷却ファンを高速で回転させることが許されません。小型ファンを定格数で回転させると、羽根による風切り音の周波数が1kHz前後になるものが多く、聴感的に耳障りなのです。これらの、時として理想とは相反する条件を、ひとつずつクリアしていく必要があります。数々の難題に対して、正攻法の技術はもちろん、ちょっとしたアイデアや工夫を加えながら、製品という最終形に昇華させています。
池上通信機では、50年以上にわたりFPUをはじめとする無線装置を、数多く製作してきました。その歴史は、常に小型軽量化との闘いであったと言っても過言ではありません。挑戦と失敗を繰り返しながら培ってきた技術とノウハウを、今後も製品づくりに活かしていきます。

