Ikegami TECH

2024.01.17

Ikegami TECH vol.27 裸眼3Dディスプレイ ~人の眼の不思議!進化する立体技術~

裸眼3Dディスプレイ ~人の眼の不思議!進化する立体技術~

「3D映像」と聞くと、少し前までは赤青の眼鏡や専用の3D眼鏡で見るもの、今はVRゲームやメタバースのブームからHMD(Head Mounted Display)で見るもの、と認識されている方も多いかと思います。しかし、眼鏡やHMDをかける煩わしさは否めません。2010年に起きた3D映像の第3次ブーム*と呼ばれていた時も、この課題が問われ、裸眼(眼鏡なし)ディスプレイ(TV)が発表され注目されました。ここでは、裸眼3Dディスプレイの代表的なレンチキュラ方式について解説します。

【立体知覚の要因】

裸眼3Dディスプレイの解説に入る前に、人の立体知覚について簡単に説明します。
人の立体知覚の要因には、心理的要因と生理的要因に分けられます。心理的要因は2D映像でも立体知覚する要因で、図1に示すような遠近法的構図や大気透視などがあります。

図1
図2

また、生理的要因としては図2に示す4つの要因があります。
単眼視要因として、運動視差、ピント調節。両眼視要因として両眼視差と輻輳があります。ピント調節は、水晶体を調節し眼のピントを合わせること。運動視差は、眼と対象物の相対的な動きに伴う眼の像の変化による奥行き知覚です。両眼視差は、左右の眼の像の対応点のズレ量(視差)によるもの。輻輳は、物体を注視した際の両眼の眼球回転で生じる輻輳角度による奥行き知覚です。
レンチキュラレンズを用いた裸眼3Dディスプレイは、後者の両眼視要因をもとに立体表示をしています。
つまり、人の眼が水平方向に並んでいるため立体知覚は水平方向の視差が主たる要因である、ということから、左右の眼に水平方向の異なる画像(視差画像)を届ける光学系を組むことで実現しています。

【眼鏡なし2眼式立体表示】

左右の眼に2つの視点画像(視差画像)を届ける、眼鏡なし2眼式立体表示について説明します。
裸眼3Dディスプレイの基本構成は図3に示すように、ディスプレイの前にレンチキュラレンズを組み合わせたものになります。レンチキュラレンズは、かまぼこ型のシリンドリカルレンズを水平方向に並べたものです。図4は原理説明のために、ディスプレイの水平画素に沿って切断したものを上から見た図になります。

図3

ディスプレイの各画素は左右の視差画像を画素単位で1対(図上のR、L画素)として、レンチキュラレンズの各レンズ(シリンドリカルレンズ)に対応させています。各画素の光(R:赤、L:緑)は図4に示すように、対応する各レンズの光学的中心で交差して透過することで、異なる方向に進行します。また、レンチキュラレンズは観察位置の左右の眼に視差画像の各画素の光がそれぞれ集光するように設計されています。これにより、観察位置に左右の眼を置くことで各レンズを通して特定の異なる画素が見え、視差画像を得て立体像を見ることができます。
実際には画素は幅を持っていますので、光の集光は点でなく図5に示すように視点は広がりを持ちます。つまり、この広がりに眼を置くことで視差画像を得て立体像を見ることができます。

図4

図5

また、レンチキュラレンズの各レンズには、対となる画素以外の周辺画素からの光線も入射してきますので、図6に示すように左右の視点が両側に繰り返し発生します。これを利用することで、複数人で立体像を見ることが可能になります。ただし、左右の目を誤った視点位置(左右反対の視差画像が見える位置)に置くと、「逆立体視」と言われる立体像の奥行きが逆に知覚される状態になります。そのため、立体像を正しく見る位置(観察位置)が限定されますので注意が必要です。
「逆立体視」の解決方法として、眼の位置を検出し見ている視点に合わせて視差画像を変える方法があります。この方法は、複数人で見るのには対応できませんが、一人で見る場合には有効な方法となります。

図6
【多眼立体表示】

眼鏡なし2眼式立体表示の課題(観察位置の制約)を解決する一つとして多眼立体表示があります。
構成は、眼鏡なし2眼式立体表示と同じくディスプレイとレンチキュラレンズの組み合わせは同じになりますが、図7に示すように、レンチキュラレンズの各レンズに3つ以上の画素(画素群)を対応させ、3つ以上の視点を発生させます(図7では4つの画素で4視点を発生)。なお、各画素には各視点位置から見た画像(視差画像)を表示します。

図7

図8

これにより、発生させた視点間を両眼が移動した場合も、各視点に対応した視差画像を得ることでき、立体像を見ることができます。また、図8に示すように視点は両側に繰り返し発生しますので、逆立体視は視点の繰り返しの位置(境界)で生じます。
多眼式立体表示は視点数を増やすことで、2眼式立体表示の課題である観察位置の制約を緩和し、逆立体視の位置を削減することができます。さらに、観察位置によって視差画像が変化するため、立体像の正面だけではなく側面も見ることができ、立体知覚の運動視差も得られます。すなわち、立体知覚の4つの要因のうち、両眼視要因の両眼視差と輻輳、単眼視要因の運動視差の3つが機能する立体表示方式になります。
ただし、原理的に解像度と視差数はトレードオフの関係にあり、十分な解像度と視差数を得るためには高精細なディスプレイが必要となります。

*第1次ブーム(1950年代):テレビの普及
第2次ブーム(1980年代):家庭用ビデオ、ケーブルテレビの普及
第3次ブーム(2010年代):ホームシアタ、ネット配信の普及
※3Dブームについては諸説あります。

参考文献

1)著:大口孝之, 谷島正之, 灰原光晴:”3D世紀”, ボーンデジタル社(2012)
2)著:高木康博:”ディスプレイ技術年鑑 2012“, 日経BP社(編集前原稿)
https://web.tuat.ac.jp/~e-takaki/research/pdf/nikkeibp_nenkan2012.pdf

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