Ikegami TECH

2024.02.14

Ikegami TECH vol.28 放送用カメラの機能をひも解く ~アナログ技術からの継承~

 放送用カメラの機能をひも解く ~アナログ技術からの継承~

 放送用カメラは今や色々なことが自動化されていますが、アナログ時代には様々な調整の工夫によって画作りが行われていました。これら先達の工夫のノウハウがあったからこその自動化であり、単に自動化といっても一朝一夕にできるものではありません。こういった過去の技術をひも解くことによって新たに生まれる発想もあるかもしれません。

■薄暮の野球中継

 例えば、野球中継では、昼間の青空から太陽が沈みはじめ薄暮になり、やがてナイター照明が灯り薄暮+照明の状態を経て完全に照明だけとなるといった刻一刻と球場の色温度が変化する状況があります。
 しかも野球中継では一般的に10台以上のカメラが使われるため、カメラの角度によっては条件が異なってきます。画面内に白の部分が少ないと映像からの自動追従というのも難しいため、一台一台のカメラの色を条件の変化に応じて合わせる必要がありました。ビデオエンジニアの方の腕の見せどころではありましたが、台数が多いと大変な作業です。
 やがて一台のカメラの制御に合わせて全部のカメラが同時に動く様な制御が考えられました。これによりカメラ間の角度によるばらつきを微調整するだけで済むようになりました。

■108%との闘い(Knee)

 4K放送では、HDR規格で広いダイナミックレンジを表現できるようになりましたが、ハイビジョンまでの放送規格では、標準白レベルを100%として、108%レベルの中にすべての映像信号を納めるよう規定されています。
 このため、ハイライトの映像はレベル圧縮する必要がありました。一般的には90%レベル付近から圧縮をして90%から108%の18%の中に高輝度信号を詰め込むKneeと呼ばれる処理が行われています。人間の眼は輝度の高い部分ではあまりグラデーションに敏感ではないという特性を見越しての処理でした。敏感では無いと言っても、この処理の仕方によっては青空に浮かぶ白い雲や、ウィンタースポーツの雪の斜面の凹凸などがうまく表現できなくなります。
 景色のシチュエーションによってこのわずかなビデオレベルの中にどの様に高輝度の信号を詰め込むか様々な調整をする機能があり、これもまたビデオエンジニアの方の腕の見せどころでもあります。
 また、Knee処理はあるレベル以上はレベルを圧縮するという処理ですが、デジタル的に折れ線にしてしまうと変化点でとても違和感のある画になってしまいます。アナログ時代はトランジスタの過渡特性でやんわりと変化していたので自然な感じでしたが、この曖昧に曲がる特性はデジタルの不得意な部分ですので、デジタル化した時にはちょっとした工夫を加えています。
 HDRによって十分なダイナミックレンジが表現できるようになりますが、限られた条件でいかに素晴らしい画を出すか様々な工夫を、番組の創り手である放送局・プロダクション様と製品の創り手である私たちメーカーが協力して積み上げてきたノウハウは、今後も生きていくと思います。

■マスターペデスタルとマスターフレア

 フレア調整機能は、もともとレンズの乱反射のRGBのばらつきの補正で一度調整したら撮影時には変更しない機能でした。ところが、例えば朝靄の中での撮影は全体的に黒が浮き上がってしまい、これを黒レベル調整(マスターペデスタル)で下げてしまうと靄のかかっていない部分を撮影した時に黒が沈んで(ゼロ以下になってしまう)しまいます。これを避けるために、マスターフレアという機能が考えられました。フレアは光の平均値をもとに引き算して値を決めるので、光があまり入っていなければ過度な補正はされないため、上記条件下でも過補正する心配も無く引き締まった黒を再現できます。

 この様にアナログ時代は、様々な技術的工夫により画作りをしていましたが、一般の視聴者の方にはあまり意識されることが少ない機能が多かった様に思います。
 最近では、高速撮影によりスローモーション再生をしたり、ボールの軌跡をAIで自動的に追尾したりと、視聴者にとってインパクトがある様な機能が開発されています。
 これらも基本的な映像技術があってこその機能であり、これまで先達が築き上げてきた映像処理が画作りの根幹である事に変わりありません。

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