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Ikegami TECH

2024.10.09

Ikegami TECH vol.36 デジタルデバイス技術発展の歴史 ~Ikegamiカメラの技術で振り返る~

デジタルデバイス技術発展の歴史 ~Ikegamiカメラの技術で振り返る~

今や当たり前となり身の回りのほとんどのものに使われているデジタル技術。ASICやFPGAの進化により高密度のデジタル回路を小さなパッケージに構成できるようになりましたが、デジタル黎明期はシンプルな処理でさえそれなりの「装置」といった規模でした。今回は、デジタル黎明期から今日に至るまでを当社のカメラ技術の進化を例にして振り返りたいと思います。

1980年代半ば、当社のデジタル黎明期の映像プロセスの機器の一つとして油膜投射型ディスプレイの油膜に現れる偽輪郭を補正するための補正装置を開発しました。当時のデジタルICの主流はTTL(Transistor-Transistor-Logic)と呼ばれるロジックデバイスでしたが、リアルタイムの映像処理には高速なデバイスが必要で、高速動作可能なECL(Emitter Coupled Logic)というデバイスを用いました。これを使用して組み上げたデジタルフィルタのかたまりの様な装置は幅約50cm高さ120cmほどのラック一本という大掛かりなものでした。ECLは高速に動作する一方、常に電流が流れることから熱を発生するためラックには10個ほどの冷却ファンがついていました。(写真1)

写真1

1990年代に向けて、放送用のカメラもデジタル化に向けた動きが出始めました。
単なる一つの補正機能を実現するのにラック一本であった時代からまだ数年しか経っていない中、人が担ぐ様なカメラをデジタル化するのは至難の業でした。
この頃、民生機器は既にデジタル化の波が来ていてASIC化が進んでおりましたが、何万台も作るような民生機器と違って放送用カメラはそこまでの台数が無いため、開発を受けてくれるメーカーは中々ありませんでした。そんな中、とあるASICメーカーと最先端のデバイスを使って放送局向けの最高の画質を出すカメラを世に出すという目的が一致して、なんとか開発を進めることが出来ました。

ASICの高集積度を測る目安として内部配線に使用する線の幅が用いられ、現在は60nmのものが主流ですが、当時は最先端のもので1.5μmでした。
また、内部に使われるトランジスタの数も当時の最大のもので、30,000ゲート程度でした。
とはいえ、数cm四方のチップの中に30,000個ものトランジスタが入るのですから前述の「装置」に比べたら差は歴然です。

この時点では、放送用のカメラをフルデジタルにするにはひとつのASICでは容量不足で、4つのASICの組合せで構成されていました。写真2は、1991年に最初にデジタルプロセスの初号機となったカメラのデジタルプロセスのメイン基板です。その後ASICの集積度は上がっていき、10年後の2000年には4つのASICは一つに集約され、さらに高機能・高速なものとなりました。(写真3)

写真2

写真3

トランジスタ数で言うと30,000ゲートから3,000,000ゲートと100倍の集積度になっています。ASICはこの後も進化し続け、最新のカメラに搭載されているものは、さらに高集積・高速でありながら低消費電力のものとなっています。

ASICは、デジタル回路を飛躍的に小型・低消費電力にすることが出来ますが、一方で一度作ってしまうと変更が出来ないというリスクがあります。ある程度将来を見越して柔軟性を持たせた設計にはしますが、これには限界があります。投資額も大きいのでASIC開発のネックとなっていました。

その後、1990年代には書き換えが可能な数十万ゲートのFPGAが登場しました。2000年代にはゲート数も消費電力もその当時のASICに引けを取らない実用的なFPGAが出始めて、これにより柔軟性が格段に向上しました。

最近ではGPUなどを用いれば、ソフトウェアベースでも十分なリアルタイム処理が可能となっています。将来的には、エッジ部分では最低限のハードウェアとしてクラウド上で処理する様になってくるものと思われます。

この様に、デジタル技術は大きく進化を遂げましたが、ディスクリートでラック一本に組んでいた時代も一発勝負のASICの時代も、そしてきっと将来も普遍的なのは、人を感動させる画作りだと思います。感性の領域をどの様にデジタルのロジックに変えていくかを考えることは未だにワクワクするものです。

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