Ikegami TECH
2025.10.08
Ikegami TECH vol.47 無線伝送とOFDM ~効率よく安定して伝える技術~ Part2

前回は、どのようにして情報を無線で送っているのか、より多くの情報を送るにはどうすればよいのかについて解説しました。2回目となる今回は、電波が伝わる過程で起こる問題と、その影響を抑えるための技術について解説します。
1.シングルキャリアとマルチキャリア
情報を伝える変調波をキャリア構成の視点から見てみましょう。デジタル変調には、1本のキャリアで伝送する「シングルキャリア方式」と、周波数が異なる複数のキャリアを並べて伝送する「マルチキャリア方式」があります。シングルキャリア方式は、変調や復調の処理がシンプルなのが特長です。1本のキャリアが、広い帯域のQAMやPSKで変調されています。一般に、固定回線で多く使われています。
一方のマルチキャリア方式は、処理はより複雑になりますが、シングルキャリア方式にはない特長を持っています。マルチキャリア方式のひとつであるOFDM方式では、等間隔に配置された数百から数千本のキャリア1本1本が、狭い帯域のQAMやPSKで変調されています。主に、移動を伴う回線で使われています。(図1)。
図1 キャリア構成
OFDM方式の特長は、有限な公共の資源である電波を、より効率良く使えることです。地上デジタル放送では、それまでのアナログ放送と同じ帯域幅を使って、4倍以上の画素数に相当する高画質映像の伝送を実現しています。また、電波が伝わる過程で起こる様々な問題の影響を小さく抑えるために、より多くのしくみを持っています。例えば、街中の建物や地面によって電波が反射したり、車で移動しながら受信すると、電波の質が悪くなります。そんな悪条件下でも安定して受信できるように、数多くの技術が取り入れられているのです。次の章で、詳しく解説します。
2.マルチパスとフェージング
無線伝送では、送信機から受信機へ直接届く「直接波」のほかに、建物や地面に反射して発生する「反射波」が加わることがあります。このように複数の伝送経路ができるのが、「マルチパス」です。反射波は、直接波に比べて経路が長くなるため、受信機への到達時間が遅れた遅延波となります。また、直接波と反射波の干渉によって、受信波の位相や振幅が変化して平坦でなくなる「フェージング」が発生します(図2)。
図2 マルチパスによる遅延波とフェージングの発生
デジタル変調は、位相と振幅の状態を使って情報を伝送しているため、これらが発生すると妨害の原因となります。特にマラソン中継など移動しながらの運用では、直接波と反射波の状況が刻々と変化するため、その影響はより複雑になります。
これを軽減するには、どうすればよいでしょうか? ひとつの方法は、遅延波が発生しても次のデータに影響しないように、データを送る間隔を広げて休止する期間を挟むことです。そしてもうひとつの方法は、位相や振幅の変化の影響を受けにくくするために、帯域幅を狭くすることです。しかしこのどちらの方法も、伝送できる情報量が大きく減ってしまいます(図3)。
図3 マルチパスとフェージングの影響とその軽減方法
そこで、時間軸と周波数軸の2つの軸を使うことで、伝送できる情報量を増やして伝送効率を上げつつ、マルチパスやフェージングの影響を抑えるように考えられたのが、「OFDM」という方式です。次回は、このOFDMとはどのようなものかについてより詳しく解説します。