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Ikegami TECH

2025.05.14

Ikegami TECH vol.43 技術の進歩がもたらした"便利"と"ジレンマ" ~デジタルによりシンプルになった技術とアナログの方がシンプルだった技術~

放送用カメラの技術はここ数十年で大きく進化をしてきました。
今ではとても簡単に実現できる機能でも、かつては大掛かりな装置が必要となるものもありました。一方、かつては非常にシンプルに実現していたが、今それを再現しようとすると意外と大変だったという機能もあります。今回はそんな幾つかの例を紹介したいと思います。

皆さんは蛍光灯、特に古い蛍光灯の電気を撮影した時に画面の明るさが細かく変化する現象を経験したことはありませんか?これはフリッカー現象といい撮影する周波数と蛍光灯の点滅周期が一致しない事で起こる現象です。
放送用カメラの標準的なフレーム周波数はほぼ60Hz(1秒間に60コマ)です。一方、蛍光灯の点滅周期は1秒間に100回すなわち100Hz(西日本では120Hz)です。
細かい原理は省略しますが、この60Hzと100Hzの違いにより60と100の最大公約数の20Hzのフリッカーが出ることになります。これは、カメラ側で1/100秒のシャッターを入れることにより、蛍光灯の点滅周期と見かけ上同じになり現象をおさえることが出来ます。蛍光灯に限らず、ある一定の周期で点滅する光などを撮影する場合は、同様の現象が起きますが、シャッタースピードを変えることにより抑えることが出来ます。
しかしながら、かつての撮像管のカメラの時代は、シャッター機能が無かったため、蛍光灯下での撮影にはフリッカーがつきものでした。
これをおさえるには、何フレームかの信号を使ってフリッカー成分を抜き出して元の信号から引き算するといったフレームメモリを用いた(当時としては)大掛かりな装置が必要でした。しかも、幾つかのフレームの加算処理をするため、動きの速い映像には不向きで運用に制限がありました。
今は、シャッター機能のおかげで、蛍光灯のオフィスのシーン等がごく普通に撮られる様になりました。

もうひとつ、昔からは考えられないほどに進化したのは、デジタル化による性能の安定性です。
写真1は昔のアナログカメラの内部です。写真左側のアルミケースの部分や写真右側に何枚か並んでいる基板の前面に丸い穴が空いているのは全て調整用のボリュームです。
時間や温度の変化で微妙にずれてしまう特性を補正するためについていましたが、今にして思うと気が遠くなるような数ですね。特に撮像管のレジストレーション補正(ゆがみやRGB間のズレ等の補正)は、一つを動かせば他の箇所もずれてしまうといった職人技による調整が必要でした。
今やこのレジストレーション補正はCCDやCMOSセンサーになって不要になり、オートセットアップ機能やデジタル化によりその他の調整用ボリュームも無くなりました。

写真1 昔のアナログカメラ

一方、かつてはとてもシンプルな技術だったがデジタル化が進んだ状況において実現が容易では無かったものもあります。その一つが押し引きレンズ機構です。

写真2 赤丸内が押し引き操作棒

写真2の様に非常にシンプルな仕組みで、丸い取手のついた棒がレンズの機構に直結していてこれを押したり(ズーム)、回したり(フォーカス)することでレンズを制御する事ができ、片手で二つの操作を同時にできる機構です。しかも慣れてくると手を動かす感覚だけでズーム位置とフォーカスを合わすこともできた様です。
野球中継などで、夕方からナイターにかけて照明条件が刻々と変わり、ホワイトバランスがずれてしまう時など、生中継ではどのタイミングでホワイトバランスを取り直すかが難しかったのですが、この1軸2操作であれば、違うカメラに切り替わった一瞬の間に2塁ベースをアップにしてホワイトバランスを取って、元の撮影の画角に戻す等の早業が容易にできた様です。演者の速い動きに合わせてフォローする時などもカメラマンの体の一部の様に動かして追従できるほど操作性に優れていました。同様の機能を電気処理で実現するには非常に時間が掛かりました。
以前のコラムで「究極のデジタルはアナログか?」と書きましたが、アナログ的な使い勝手の良い面と格段に進化したデジタルの利便性の追求、どちらも大切にしていきたいです。

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