Ikegami TECH
2025.03.12
Ikegami TECH vol.41 テレビのアスペクト比の変遷 ~4:3から16:9へ、その次は?~

普段何気なく見ているテレビ。画面の横と縦の比率はご存じでしょうか?
最近は携帯で縦長の画面を見ている方も多いかもしれませんが、テレビでは縦と横の比率をアスペクト比といって16:9と厳密に規定されています。
この比率で真円が真円で表示される様に撮像系から映像処理系、表示系までが設計されています。
その昔、テレビのアスペクト比は4:3でした。いまでも、昔のドラマやニュースなどの再放送で画面の両脇が黒味あるいは加工された状態の画面で放送されているのを見かけると思います。
現在放送されているハイビジョン(以下HD)放送になった時点でアスペクト比は16:9と規格で定められました。HDの前のアナログ(NTSC)放送(以下SD)の時代は前述の様にアスペクト比が4:3でした。
SD放送からHD放送には突然切り替わったわけではなく、一般家庭にHDのテレビが普及するまでには相応の時間がかかりました。このため、ある一定期間双方の放送が同時に放送(サイマルキャスト)される移行期間が設けられました。この混在期は16:9と4:3の二つのアスペクト比の番組が放送されていたことになります。移行期間のみとはいえそれぞれの番組を別々に制作するとなるとコストがかかりすぎます。
一方、本格的なハイビジョン放送が始まる前に、既に放送機材はある程度HD化が進んでおり、16:9のHDカメラは普及し始めていました。そのため、16:9で撮り、HD放送にはそのまま、SD放送にはダウンコンバーターを通した映像を使うのが主流となりました。
この時、SDの放送は、16:9映像の左右を切って中心の4:3の部分だけを放送するサイドカット方式(図1)と、画面上部を黒味にして4:3の画面に16:9の映像をはめ込むレターボックス方式(図2)の二種類がありました。

図 1

図 2
サイドカット方式は、従来のSDモニタで見る限り特に違和感はありませんが、本来ある両サイドの映像が切れてしまうので撮影の仕方によっては見たい部分が見えないこととなりました。一方レターボックス方式だと、全体が見えるが、当時のSDモニタで見ると結構小さく見えてしまうというそれぞれ一長一短がありました。
一律に4:3で切れてしまうと制作者の意図が伝わらない等の意見があり、その中間の15:9や14:9をはめ込むなど、様々なトライアルが行われました。
この様にアスペクト比の違うテレビが混在している時期は、番組制作は複雑となりました。
映像調整もHDとSDの双方の色味を管理するなど、色々と課題はありましたが、特にカメラマンは、単に切り出すだけでなく、16:9の画角と4:3の画角を両方意識し、ぞれぞれの画角が番組として成立する必要があり、かなりストレスフルだったと思います。
このため、ビューファインダーには16:9画面に4:3のマーカー(図3)を入れたり、左右の部分の輝度を落としたり(図4)とカメラマンの様々な意見を聞きながらストレスを軽減するよう工夫が成されました。動きの多い番組などは相当大変だったと想像に難くありません。

図 3

図 4
ここで少しアスペクト比に親密に関わる画素数の話をします。現在のHDの規格では有効画素は横1920×縦1080と、16:9の比率になっておりますが、HDの初期、日本がMUSE方式を提案したころは、1920×1035でした。
このため、当社が初期に商品化したHDカメラも1035規格のものでした。何故1035という数字が出てきたかは記憶が定かではありません。コラム読者でご存じの方がいらしたら是非お教え頂きたいです。
推測ですが、SDの規格では、総走査線数525、有効走査線数480でブランキング期間が45となります。HDの時にこのブランキング期間を倍の90と規定したとすると、HDの総走査線数1125から90を引くと1035になります。当時はアナログ時代でしたので過渡特性の関係でそれなりのブランキング期間が必要だったと想像します。
ちなみに、現状の1080の場合はSDの時と同様にブランキング期間は45となります。
NHK様にはHD黎明期に1035規格で作られたカメラが何台か入っていたため、スイッチングした時に縦の画角が合う様に1035-1080変換装置を開発した記憶があります。
1920×1035では、比率が16:9丁度にならないので、画素が若干縦長になってしまいます。これでは当時はやり始めたコンピューターグラフィックスとの親和性が良くないという事で、正方画素となる様に1920×1080が最終的な規格となった経緯があります。
昨今では、スマホで縦長の画面を楽しむ方も増えてきています。縦長のテレビはまだありませんが、街で見かけるデジタルサイネージなどは縦画面が主流ですね。将来、カメラのアスペクト比は1:1となって、縦向きでも横向きでも視聴者が選べるようになるかもしれません。コンテンツ制作に新たな手法が生まれるかもしれませんね。