2021年6月2日Ikegami Engineer Talks (FPU編)- Vol.3

4K/IP時代 新たなFPUへの挑戦

伊藤
メーカーでモノつくりがしたい、という想いから2008 年に設計会社から転職。
放送用機器の機構設計・開発に従事。
【モットー】
・図面の線、1本1本には全て意味がある
・ピンチはチャンス! 思考をポジティブに!
水野
2008年に中途入社。
伝送機器のソフト設計。主にFPUのソフト設計・開発に従事。
【モットー】
・何事にも根気よく


不確実性が広がる世界を見据えた、新時代のFPU

― 業界のスタイル、そして技術も、目まぐるしいスピードで変化していく時代に、生まれたPF-900。従来のFPUのイメージとは大きく変わった印象があります。開発するにあたり、何かキッカケがあったのでしょうか?

伊藤:
開発をスタートさせる少し前の話ですが、4K汎用FPUについてお客様へ提案をさせていただく機会がありました。当時の提案は、従来のIkegami製FPUをベースに、4K対応の機能を単にプラスしたイメージのものでした。結果、見事に玉砕しました。お客様が今後10年以上は使い続けるであろう『4K対応の汎用型FPU』で新時代へ改めてスタートしたい、という想いを当時の我々は酌めていなかったと、今にしてみれば感じます。新しいモノを生み出すにあたり、どこかで失敗を恐れて従来に倣った無難なモノづくりをすることでチャレンジすることを忘れていたのかもしれません。そこから、どういったモノづくりをするかを見直し、開発をスタートさせました。

    苦い経験からのスタートだったのですね。その後、どのようなコンセプトでデザイン(設計)したのでしょうか?


水野:
PF-900は、従来のFPUとしての標準的な機能に加え、4K、IP伝送、標準規格であるARIB STD B71といった最新の技術を搭載した多機能型FPUです。基本コンセプトは、多機能化に加え、小型・軽量・低消費電力・高性能を実現させることでした。しかし、お客様にご満足いただく製品とするためには、ただ単に小型軽量、高性能なだけではならず、簡単には壊れない、高い信頼性・安定性がなければなりません。便利な各種伝送機能を新規に搭載しつつ、小型・軽量・低消費電力化し、10年以上使っても壊れない長寿命なFPUを作り上げることが、私たち設計チームの大きなミッションでした。


伝送帯域を余すことなく活用

―  従来のFPUと大きく変わった点の1つとして、IP伝送がありますよね。

伊藤:
そうですね。PF-900ではIP伝送機能搭載により、従来のSDI、ASIの伝送に加えてIPによるデータ転送が可能になりました。

―   映像信号の他に何かのデータを送ることができるというイメージでしょうか?

水野:
 
PF-900のIP伝送機能は、FTP(ファイル伝送)とRTP(リアルタイム伝送)の2つの方式に対応しています。
例えばFTPとして使えるツールの1つに、iPhoneがあります。WEBでフリーのFTPアプリをインストールしたiPhoneがあれば、PF-900を伝送路としてiPhoneで撮影した動画を伝送することができます。「視聴者提供」と書かれたスマートフォンで撮影された動画がニュースで使われているのを見たことあると思いますが、スマートフォン等身近な端末で撮影した素材が使われることも昨今増えてきました。中継現場などで、低めの画質の中継映像をライブで伝送すると同時に、夕方のニュース番組などで放送するための高画質で撮影した映像を、ファイル伝送で同時に伝送し、FPUの帯域を有効活用する、といったようなことも可能になります。
IPコーデック、IPカメラなどのIPストリームが出力される機器であれば、ライブ映像を伝送することができるのがRTP方式です。例えば、遠く離れたFPU送信所の部屋内を映したIPカメラの映像などを空いた帯域で本線の映像と同時伝送し、トラブルの際の解析に使用することができます。

伊藤:
ライブ伝送の場合でもLANケーブルさえあれば良いので、外付けのコーデックを必要としないのも便利な点です。 また、TS多重機能も備えているので、IP伝送単独はもちろん、ベースとなるSDIやASIと同時に伝送することができるので、FPUとしての伝送帯域を余すことなく活用することができます。


1番の困難を乗り越えた裏側にあった、チーム力

―   様々な機能を追加した上で品質を担保すると同時に小型軽量化を実現するには、様々な困難とチャレンジがあったのではないでしょうか?

伊藤:
 
「小型軽量化」を実現するために、切っても切れない関係の「熱設計」を考えなければなりませんでした。この両方を高いレベルで実現することが一番のチャレンジでした。熱設計は1人でできるものではなく、幅広い知識とそれをまとめるチーム力が必要です。


―   単純にプロフェッショナルを集める=良いモノを生み出せる、というわけではないということですね。


伊藤:
特にPF-900では、小型軽量化、低消費電力化だけではなく、これからの時代の多様な運用に対応していけるように設計しているため、自分のことだけに取り組んで満足していては、ここまでのものは生み出せませんでした。チーム一丸となって小型軽量化に向けて取り組んでいたので、最終的に組み立てられた製品を秤に載せて数字がでるまでドキドキしていたことを今でも思い出します。このチームには、それぞれの専門を生かしながら相乗効果が生まれるような雰囲気があります。

―   新たなチャレンジをカタチにしていくには、職場の環境も影響しそうですね。

伊藤:
いまのFPUチームは比較的年齢層が若く、同年代の人たちが集まっていますので良い風土、環境ができつつあるのかと思っています。仕事中のちょっとしたコミュニケーション、傍から見るとムダ話・立ち話をしているように見えるかもしれませんが、何気ない会話の中で閃きや気づきが生まれることも少なくありません。横のつながりがある、風通しのよい職場だと実感しています。


ユーザーエクスペリエンスを突き詰める

―   Ikegamiの伝統技である「小型軽量化」の追求は、やはり機動性へのこだわりでしょうか。


伊藤:
2ピースFPUの場合、高周波部を高所に設置する場合があり、FPUを背負いながら鉄塔を登り設置&撤収することがあります。また、そのような場所は山の上に送信所があることが多いため機材の運搬にも小型軽量は有利です。同時に、小型軽量化による作業性向上は高所作業のリスクを軽減するとも言えると思います。
また、放送局様の中継映像でカメラマンさんの後ろにFPUを背負った方がいるのを見たことないでしょうか。FPUの運用形態は様々です。機材は極力軽量であることで喜んでいただけると思っています。
一方で、小型軽量化の追求は製品の安定性、信頼性にも繋がります。製品を小型化するということは、構造がシンプルになる、つまり部品が減り、故障率を下げることに繋がります。低消費電力も1つのコンセプトだったと冒頭でお話しましたが、消費電力の低さにこだわるのも製品の信頼性を上げるためです。消費電力が低いと、発熱が抑えられます。そうすると、部品レベルで安定し、故障率が下げられるのです。
小型軽量化、低消費電力とひとことで言っても、そこにどういう意味があるか?といったことは表立って発信されませんが、設計としてとてもこだわっている点です。

―   「安定して伝送ができる」というFPUの信頼性に大きく関わる部分から、多様な運用シーンで使いやすくするための運用性まで、FPU運用に関わるありとあらゆるシーンでの使い勝手を突き詰めているのですね。機能が増えるとユーザーインターフェースは複雑になりがちですが、どのように運用性と両立させたのでしょうか?

水野:
大型液晶表示により、GUI面を強化しています。これまでのIkegami製FPUは、使い勝手の良さに直結するユーザーインターフェースの面で課題がありました。表示がわかりづらかったり、ボタンの操作性が悪い、また液晶の設定メニュー等の階層が多くて目的のメニューを探すのが困難であったりといった意見を耳にすることもありました。 ソフト設計としては、これらの課題を無視することはできず、今回のPF-900の開発を良い機会に、ユーザーインターフェースをより操作性の高いものに一新することにしました。

伊藤:

FPUは、ボタン操作が一回でも多いだけで”使いづらい””難しい”装置というイメージが強くなってしまうようです。運用に必要な情報を、なるべくボタン操作をせずとも一画面で表示できるようなGUIを考えました。ただ、あまりにも一画面に文字の量が多いと見づらくなるので、いかに直感的でわかりやすく、それでいて必要な情報が確認できるデザインにするかが重要でした。そのために、客先での実機デモ活動や展示会などに足を運ぶことで、そこで得た様々なユーザー目線の意見を参考にし、現在のGUIを実現することができました。

水野:
具体的には、4.3インチの大型液晶の搭載、スペアナからヒントを得た5つのファンクションボタンによるメニュー操作などを実装しました。その結果、お客様からも従来機と比べて操作しやすくなったとのお声をいただいています。

―   大量の情報をシンプルに操作できるようにすることは、現場のストレス軽減にもつながりますね。デジタルだけではなく、階層メニューに入らずともアナログ操作できるようにしている点も、様々なユーザーへ寄り添いから生まれるのだろうな、と感じました。


Ikegamiから新たなトレンドを生み出していきたい

―   「10年以上使い続けられる」というミッションがあったということを冒頭に伺いました。10年後のFPUの運用シーンのイメージというのはありますか?

伊藤:
世の中の変化、そして技術革新は非常にスピードが上がっており、10年先を読むのは非常に困難です。FPUというものが、放送業界で10年後、20年後にどうなっているのか読めませんし、放送業界全体のスタイルもどんどん変わってきています。今から10年前を振り返ってみても、IkegamiのFPUにIP機能を持たせることや、ましてや液晶画面を搭載するとは誰も想像していませんでした。液晶の技術は10年前にも存在していましたが、FPUの使用用途として液晶搭載は特に必要ないと考えていたのです。
ただ我々は、世の中の移り変わりをぼんやりと眺めているわけにはいきません。FPUに限った話でいえば、根っこの技術となる高周波ユニットの設計や安定した送受信性能の技術は、10 年後も普遍的なものと考えています。それらをIkegamiの根っこの技術ノウハウとして継承していきながら、10年後のトレンドをイチ早くキャッチし、その時々に必要な製品を、スピーディーに開発することが必要と考えています。常に最新技術にアンテナを張り、新たな技術にチャレンジすることは勿論ですが、お客様の現場をよく観察してより良いユーザー体験を生み出せる仕掛けや、Ikegamiから新たなトレンドを生み出すようなモノ作りを進めていきたいです。

―   最後に、今後目指したいことを教えてください。


伊藤:
私の場合、機構設計の役割を全うすることでひとつの製品の一端を担い、その製品がIkegamiとして放送業界の一旦を担う、そして放送業界が盛り上がる。と考えれば自分の仕事が決して小さいものではないと感じています。「Ikegamiらしくていいね」と言ってもらえるような製品を生み出し続けていきたいです。

水野:
今後、FPUはスマートフォンの普及や5Gなどネットワークの高速化によりその需要は減ることが予想されます。 その中でFPUメーカーとしてお客様にIkegamiのFPUをぜひ使いたいと思っていただけるような付加価値のある製品を開発していきたいです。



次回は、IkegamiのFPUへのこだわりとこれからの進化についてのEngineer Talksをご紹介します。