2018年11月01日Ikegami Engineer Talks - Vol.4

「お客様の夢を形にする企業であり続けたい。」 それが「映像技術のプロ」であり続けるIkegamiの願いだ。 IP&T(Image:撮像、Process:画像処理、Transmission:伝送)にフォーカスして映像技術を探求し続けるIkegamiは、どのようなこだわりを持っているのか。Ikegamiのエンジニアインタビューをご紹介します。


 
UHK-430には次世代高速ビデオプロセッサエンジン”AXII”が搭載されている。これまでのノウハウと徹底的なこだわりを入れたAXIIは、世界中で最高画質と認められる”Accelerate Imaging by Ikegami”を実現させた。 高解像度化への対応だけではなく、感性を込められる映像を目指したシステムカメラにはどのようなこだわりがあるのか。 AXIIの開発に携わった阿部が語る。
 

入社2年目から映像処理要素技術の開発に従事。
その後、放送用カメラのデジタル映像処理設計を経て、AXIIの開発に参加。

【モットー】
・どんな現象にも必ず原因があり、そこから結果が生まれることを忘れない。


映像処理技術のノウハウを集積

 
― UHK-430には 新しいビデオプロセッサ”AXII”が搭載されているとのことですが、まずAXIIについて教えてください。

阿部:
AXIIとは、4K、8K規格の対応を視野に入れてIkegamiが開発した、デジタル映像処理ICであるASICの名称です。 ASICはApplication Specific Integrated Circuitの頭文字を取ったもので、特定用途向けの集積回路(IC)のことを指します。

私たちIkegamiは、放送技術の変遷にあわせてASICの開発を行っています。 SD時代には、ひとつのASICの中にゲインアップやカラーマトリクスなど単一機能が入っていて、それらを組み合わせて使っていました。 それがHD時代のASICでは、ガンマ/ニー補正、ノイズフィルターなども加わり、HDTVカメラのデジタル映像処理のほとんどが1チップで処理できるようになったのです。それによって放送用カメラの小型化、多機能化が実現できるようになりました。

HDR対応、カラーコレクション機能の強化、マルチフォーマット対応などを追加し、次世代のビデオプロセッサとして開発したのが、UHK-430に搭載されているAXIIです。 4Kでの運用に不可欠な処理を低消費電力で実現し、当社のこれまでの映像処理技術のノウハウが集積されています。


映像処理への強いこだわり

― 市販のプロセッサや映像処理IC、FPGA等のプログラマブルハードウェアなどは使わないのでしょうか?

阿部:
年々技術の進歩により、高性能/多機能な映像処理デバイスが各社からリリースされているので、もちろんそういった市販のプロセッサや映像処理ICを検討・採用することもあります。
ただ、これらのデバイスは汎用的な処理を行うことを目的としているので、放送システムカメラには不向きな点があります。 放送用システムカメラというハイエンドのカメラで、更に4K対応機材となると、求められる画質・消費電力・静音化などを全て実現するには、やはり専用ICの独自開発が必要でした。

 
4K映像フォーマットでは1フレームあたりの映像データ量が2K(HD)の4倍あります。 それに加え、高ダイナミックレンジ・高色域に対応するための新しい機能の追加をしているので、どうしても消費電力が増えてしまいます。消費電力が増えると何が起こるかというと、映像処理を行うデバイスの温度が上昇してしまいます。 すると機器内の温度上昇はヒートシンクや冷却ファンでは抑えきれない状態となるため、映像処理デバイスそのものの改善が必要となるのです。

情報量が多くなったために処理をハイスピード化すること、低消費電力化を実現するためというのが専用ICを作った理由ではありますが、実はそれだけではありません。 その答えは、このASICが放送用システムカメラのために作られていることと、私たちの映像処理に対するこだわりにあります。

放送用システムカメラは、映像の入出力系統にビューファインダ用やモニターアウト、本線出力など複数の系統が備わっています。そのため、各系統の用途に合わせて個別の処理をする必要があり、デバイスの中ではかなり複雑な処理をしています。そのような放送用カメラ独自のシステムを実現するには、専用ICの方が向いているのです。

また、放送用カメラは高品質な映像の処理を行うもので、Ikegamiには映像の品質の良さを見極める技術と、その品質の向上を実現する技術があります。私たちがこれまで培ってきた映像処理技術のノウハウ・こだわりをより忠実に実現するためにも、自分たちの思い通りに設計できるビデオプロセッサが必要になるのです。


ちりばめられたIkegamiのノウハウ

― AXIIの開発で、特にこだわった点はありますか?

 
阿部:
単に4K規格に対応するだけでなく、当社の映像処理技術をより忠実に組み込むことにこだわりました。 ASICは設計の自由度がとても高いというメリットがあります。 一方で、開発費やIC製造技術のトレンドの制約によりハード的なリソースが限られるので、私たちが入れたい理想の処理を何でも実現可能というわけではありません。 ある機能を、性能は落とさずに簡単なロジックで実現できないかとか、このロジックの部分は本当に高速で動かす必要があるのかどうかといった見直しを行うなどの対策を行うことが必要でした。この見直しには、大変苦労した記憶があります。

そういった状況の中、お客様の画作りを適切にサポートするために必要となる機能のブラッシュアップを図っています。 例えば、ハイライト部分をナチュラルに表現する処理や、繊細なディテールを表現する処理などは徹底的にこだわっています。 他にも、16軸カラーコレクタ機能では、指定した色を違う色に変えたときに、お客様が使う用途に合った処理になっているか、変えた色と変えていない色の境界をどのように処理するか、ベストな方法は何か、ということを考えています。 あらゆるところに私たちのノウハウが入っているのが、このAXIIなのです。

また、良い意味で余計なことはしないというのも放送/業務用の撮像機器で大事な要素の1つだと思っていまして、この考え方はAXII内部の細かい処理についても反映されています。


想定外のトラブルにも遭遇

― ASICの設計というと、なかなか大きなプレッシャーだったと思います。どのような点に苦労しましたか?

阿部:
全体を通して大変苦労したと思うのは、やはり事前検証のフェーズです。 自分たちで作りこんだ映像処理機能が確実に実際のデバイス上で動作するように、IC製造の前に様々なシナリオを設定して何度も注意深くシミュレーションによる確認をしていくのですが、総合検証の段階では1回の動作確認に20時間以上かかることも珍しくありません。 また、AXIIには海外の超高級乗用車が何台も買えるような開発費が投入されているので、IC製造後に万が一、致命的な欠陥が残ってしまったときには目も当てられません。ASICは、一度このICの製造し始めてしまうと後戻りすることはできないのです。何故かというと、バグの修正や機能追加をICの製造途中で行おうとすると、追加費用で更に超高級乗用車を買えてしまいます。

実質的にAXIIの品質を決定づけるこの検証工程では、何度か想定外の大トラブルが発生してかなりギリギリな状況に追い込まれました。 しかし、そのときにも開発チームのメンバー、ASICベンダー代理店の方々が地道に問題解決に協力してくれたことで、最終的にはAXIIが4K機器を実現する上で重要な役割を担うことができました。 これにはひたすらに感謝しかありません。

 


― 最後に、今後目指したいことを聞かせてください。

阿部:
エレクトロニクスに限らず様々な分野の知識を活用し、当社の映像処理技術のノウハウと組み合わせることで、こだわりの画作りを追求するお客様にしっかりとお応えできる機能を実現していきたいと思います。



次回はUHK-430シリーズの最終回として、これからのIkegamiを担う若手エンジニアの声を紹介します。



バックナンバー

  • Vol.1 ”放送用システムカメラ” について
  • Vol.2 ”こだわりの機構設計”について  
  • Vol.3 ” 多様な運用に寄り添うソフトウエア”について   
  • Vol.5 ”若手エンジニアの挑戦”について
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