2018年10月17日Ikegami Engineer Talks - Vol.3

「お客様の夢を形にする企業であり続けたい。」 それが「映像技術のプロ」であり続けるIkegamiの願いだ。 IP&T(Image:撮像、Process:画像処理、Transmission:伝送)にフォーカスして映像技術を探求し続けるIkegamiは、どのようなこだわりを持っているのか。Ikegamiのエンジニアインタビューをご紹介します。


 
製品寿命の長い放送用システムカメラだからこそ、長期間の運用を見据えたデザインが必要となる。 時代と共に変わる運用スタイルに、長い間培ってきたノウハウはどのように反映されているのか。 UHK-430のソフトウェア設計を担当した宅間が語る。
 

Engineer Talks
日本の月周回衛星「かぐや」に搭載されているHDカメラの映像に一目惚れ。そのカメラが池上通信機製のものであると知り、自分も名前が残る仕事がしたいと、2008年にソフトウェア会社から転職。放送用機器のソフトウェア設計に従事。民生品で培った知識と歴史ある池上のノウハウを融合させ業界No.1のカメラを開発するため日々奮闘中。
【モットー】
・日々を楽しく。 組込みソフトは基本的に泥臭い作業ですが、その中でも楽しさを見出したいです。 作り手が楽しんでいないカメラは魅力がないと思っています。


― まず、ご担当されているソフトウェアについて教えてください。

Engineer Talks  

宅間:
私が担当しているのは、組込みソフトウェアと言われるものです。カメラ筐体の中に入っている基板内のCPUを制御して、各デバイスを操作しています。VF(ビューファインダー)にキャラクタが表示されたり、OCP(オペレーションコントロールパネル)からカメラの映像制御が行えたりするのは、ソフトウェアの働きです。 人間に置き換えれば脳や神経部分を構築しているようなものです。



放送用システムカメラだからこその配慮

― ソフトウェアの設計において、民生品と放送用システムカメラの大きな違いはありますか?

宅間:
 
システムカメラは1台での運用ではないので、互換性を保つことを心掛けています。 放送用カメラの製品寿命は10年を越えることもあります。そのため「古いカメラが動かない」という場合、他のスタジオから急遽カメラを持ってくるということも有り得ます。その際に「色が合わない」「OCPから操作できない」といった不測の事態が起きないように互換性を保つということが重要です。また、お客様の設備更新時に必要なものだけを買い替えていただく、ご予算に合わせて段階的に更新していただく、ということも想定しています。
また、放送用カメラにおいて運用中の操作ミスは絶対にあってはならないことなので、操作ミスを防止できるよう非常に気を使っています。 例えば、映像は基本的にR(赤)、G(緑)、B(青)を軸として調整しますが、Gを動かすと放送される映像に大きな影響が出てしまいます。そのため、Gのボリュームを触ってしまってもRとBが可変するようにしたり、暗闇でも手の感触でわかるようにGのボリュームを機構的に変えたり、細かな工夫を施しています。 その他にも、タリーが点灯しているカメラは映像調整が制限される「タリーガード」という機能で、オンエア中に映像が大きく変化することを防止させたり、機能によっては権限を持った人以外触れられないようする、など対策を講じています。


カスタマイズしやすい構造に

― UHK-430はどのようなコンセプトで設計されたのでしょうか?

宅間:
やはり『お客様に寄り添う』ことを1番の軸に置きました。 一言でお客様に寄り添うと言っても、単純なことではありませんでした。運用開始後の様々な場面を想定し、これまでの「当たり前」を見直しました。 これまでは同じカメラであっても、お客様ごとの要求に対応するため多くの特殊ソフトウェアを設計していました。お客様専用のスタイルでお使いいただけるという点ではメリットがありますが、新たな機能を盛込んだソフトウェアをリリースする際、特殊仕様では標準仕様よりリリースまでに時間がかかってしまいます。つまり、最新のソフトウェアをお客様に提供できるまでに時間がかかるということです。そこで、これまで当社が積み重ねてきた特殊仕様などのノウハウを標準仕様に盛り込み、カスタマイズしやすい構造にデザインしました。それによりUHK-430は、お客様ごとのスタイルでの運用と、最新のソフトウェアでの運用を両立できるようになりました。
 

他にも、これまではカメラヘッドとVFのメニューはそれぞれ1つの個体として動いていましたが、VFからの操作で両方を制御できるようにしました。カメラヘッドもVFも1人の人が操作するので、そちらの方が自然ですよね。メンテナンスまでを考えた大きな軸、1つ1つの動作を考えた小さな軸、両方の視点を持ちつつ、隅々までこだわっています。

先ほどお話したように、放送用システムカメラでは互換性がとても重要です。そのため、ソフトウェアの構造を変更することは社内でも賛否両論ありましたが、互換性と運用性についての試行錯誤を繰り返した結果、お客様に安心してお使いいただくための形になったのではと思っています。


更にこだわったフォーカスアシスト

― HDから4Kになったことで、変わったことはありますか?

宅間:
 
4Kになったことで、フォーカスの調整がかなり難しくなります。そのため、どのようにフォーカスをアシストするかということはこだわりました。 これまでのカメラにもフォーカスをアシストする機能はついていましたが、UHK-430では4K映像から抽出したエッジ成分をVF映像に重畳させることで、フォーカスの精度を上げられるようになっています。 感覚的にわかりやすいフォーカスアシストだけではなく、拡大機能やフォーカスインジケーター表示など、いくつかの指標を持てるようにしています。


― 2Kの信号から抽出せずに、4K信号を使っているところがこだわりですね。


痒いところに手が届くよう

― UHK-430、お客様からの反応はどうでしょうか?

 
宅間:
展示会やデモなどでよくご好評頂くのは、このUHK-430とのユーザーインタフェースとなるOCP-300ですね。様々なカスタマイズ機能がお客様から喜ばれています。 例を1つ挙げると、ユーザー画面のカスタマイズです。近年カメラの多機能化が進んでおり、この小さなパネルで制御するには液晶内部に組み込まれている多数の機能から、必要な項目を選択する必要があります。1つの画面に頻繁に使う項目などをレイアウトすることでVE(ビデオエンジニア)の方が短い時間で調整することも可能になり、重宝されているとよく伺います。
また、UHK-430ではダイアグノス機能という信号の状態を監視できる機能もご好評いただいています。これがUHK-430導入の大きな決め手となったというお客様もいらっしゃいました。 これは当社の8Kカメラのノウハウがベースとなっています。4Kになり、配線数が増えたことで何かトラブルが起きた際に、問題の切り分けに時間がかかってしまいます。何かトラブルが起きた際に、極力少ない手間で早く問題解決ができるよう、今までより詳細な情報を確認できるようにしました。


― 使い勝手だけではなく、安心して使っていただける機材である、ということも放送用カメラには重要な役割ですね。

宅間:
技術者として難しい機能を考えるというより、お客様が必要としていることを考えることが重要です。「お客様の痒いところに手が届くように」といったところでしょうか。


― そう考えるようになったのは、何かキッカケがあったのでしょうか?

宅間:
VEの仕事の一つに「白を合せる」ということがあります。人間の目には室内であっても屋外であっても白い紙は白く映るのですが、カメラで撮ると色温度というものに左右されて白が白ではなくなります。例えば野球中継をしている時に白球が、昼は青っぽい白、夕方は赤っぽい白になるイメージです。VEは赤と青の色味を調整して白を合せています。しかし、夕方になると暗くなるので、同時にレンズのアイリスも調整する必要があります。これでは手が3つ欲しくなってしまいます。それを複数台のカメラに対して行うと思うと…本当に大変ですよね。
これらのお客様の声から「バリアブル色温度補正」という機能を開発しました。これは1つのつまみを回すと、色温度にあった赤と青の色味調整を同時に行うというものです。複数台同時に調整することも可能です。技術的に難しい機能というものではないのですが、お客様からは「手が2つで足りる!」と、本当に喜ばれました。その時に、やはり技術者の独りよがりなカメラにならないような注意が必要だと思いました。


カメラを通してより良い経験を

― では最後に、今後目指したいことを教えてください。

宅間:
 
お客様から「いいね!この機能!」と言っていただく瞬間のために普段の業務に励んでいる気がします。お客様から評価頂くということは、我々エンジニアにとってはそれ程までに嬉しいことです。 これからも池上通信機のカメラを選んで頂き、お客様に私たちのカメラを通してより良い経験をしていただくためにも、良いモノを作り続けていきたいと思います。まだまだ一部のこだわりしか紹介できていませんので、是非展示会などで池上のカメラを手にとって頂き、直接お話ができれば幸いです。


次回は、こだわりの画質を生み出すIkegamiのカメラの心臓部についてご紹介します。



バックナンバー

  • Vol.1 ”放送用システムカメラ” について
  • Vol.2 ”こだわりの機構設計”について  
  • Vol.4 ”次世代高速ビデオプロセッサエンジン AXII”について
  • Vol.5 ”若手エンジニアの挑戦”について
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