2018年9月26日Ikegami Engineer Talks - Vol.2

「お客様の夢を形にする企業であり続けたい。」 それが「映像技術のプロ」であり続けるIkegamiの願いだ。 IP&T(Image:撮像、Process:画像処理、Transmission:伝送)にフォーカスして映像技術を探求し続けるIkegamiは、どのようなこだわりを持っているのか。Ikegamiのエンジニアインタビューをご紹介します。


 
高い運用性と信頼性が要求される放送用システムカメラ。 そこには数え切れないほどの、こだわりが詰まっている。 Ikegamiの放送用システムカメラの4Kフラッグシップ機として世界中で運用を始めている4Kシステムカメラ、UHK-430のこだわりについて、機構設計を担当した日置が語る。
 

志望動機「かっこいいカメラを作りたい!!」というだけで、2008年に建材メーカーから転職。 異色の機構設計者として、様々な放送用機器の設計・開発に従事。 ゼロベースから設計した8KカメラSHK-810、4KカメラUHK-430は特に思い入れが強く、自慢の息子。

【モットー】
・素直・謙虚・感謝
 人一人では何もできません。支え、支えられ仕事は成り立っていると思っています。


作り手に寄り添う

― UnicamXEシリーズUHK-430のデザインコンセプトを教えてください。
 

日置:
当社のカメラは堅牢性に優れていて、フルモデルチェンジの設計担当を出来たことは非常にラッキーでした。そこで、ここまで頂いたご意見を取り入れて「運用性にとことんこだわる」をコンセプトに、実運用での様々な場面に近い形で試行錯誤を繰り返しました。



― どのような運用を想定したのでしょうか?

日置:
ハンディカメラの運用としては、肩担ぎ、三脚、クレーン、又はシステムエキスパンダー・レンズサポーターに載せて大型レンズでの撮影など様々です。肩担ぎの中でも、煽りや俯瞰といった手に持って撮影する手法もあります。その全てに対応できるシステムカメラをデザインしました。 「運用性=機能美=デザイン」と考えています。よって単純にかっこいいデザインということではなく「このカメラよく考えられているね?」と言われるカメラを目指しました。結果かっこいいデザイン(ここでは意匠の意味)になったと思っています。自画自賛です(笑)


一番こだわったバランス

― 運用性で特に重視したところはどこですか?

日置:
 
肩担ぎの際のバランスです。ハンディカメラというものは、ただ軽ければ良いというものではありません。 長時間担いでいると肩はもちろん、腕でカメラを支えるのが辛くなってきます。ここがポイントです。 通常、右肩に担ぎ、右手でレンズのグリップを握って、左手でフォーカスフォローを行います。 レンズが前にあることによりどうしても前重になってしまい、レンズを支えている右腕に負担が掛かります。 この腕の負担を軽減させるために、重心を後ろにして、ショルダーパッドの位置をできるだけ前にしました。本体は前側のセンサーユニットと後ろ側のメインユニットに分かれていて、全体の重量の2/3がメインユニットになっています。ショルダーパットの位置は現行モデルに比べ30mm前にしています。これにより腕に掛かる負担が約40%軽減されます。


― 重心位置とショルダーパッドの位置だけで40%も軽減されるのですか?では重量はあまり関係ないのでしょうか。

日置:
いえ、絶対重量はもちろん軽くしたほうが良いので、筐体はオールマグネシウム合金で構成しています。マグネシウム合金は、金属の中では最軽量の材料です。アルミニウム合金と比べると1/3軽くなります。ただし、カメラ+レンズ+VF(ビューファインダー)のセットだと、全体の重量は軽くはありません。そこで、ショルダーパットを工夫しました。


 
― ただのクッション材のように見えますが・・・

日置:
ショルダーパットで肩への負担は大きく違います。ショルダーパットに必要な要素は何か、まず、痛くないこと、それと滑らないことです。このショルダーパットは実は2重構造になっています。 外側は滑りにくい材質、内側は柔らかい材質。つまり、外の皮は滑りにくく、中のあんこの部分は柔らかくなっています。これにより、長時間担いでも滑ってカメラがぶれるということはなく、且つ肩への負担を軽減します。


こだわり抜いた運用性

― 他にこだわったところはありますか?

日置:
まだまだあります(笑)カメラ越しの視野には特にこだわりました。カメラマンは演者を肉眼で追うことがあります。 何故か想像つきますか?次の狙いを定めているのです。その時にカメラを動かさずにVFから目だけ外して、周りを見ます。そのため、視界を遮らないように筐体の高さを低くし、更にVFをハンドルに取り付け、レンズとVFの間の空間を作っています。


― なるほど、ちょうど目線の位置に空間が開いていて、周りが見渡せるのですね?

日置:
 
そうです。この目線の位置も大事で、肩から目線の位置までを人体寸法から割り出して決めています。このカメラは男女の平均値を取っています。最近は女性カメラマンも活躍されていますし、男性も女性も撮影しやすいようにデザインしています。

筐体高さを低くしたメリットは、視野確保だけではありません。コンサートホールなどで客席にカメラを設置した場合、カメラが後ろの観客の視界を妨げてしまうことがあります。そういった場合も想定して、出来るだけ高さは低くしないといけません。 また、筐体高さを低くしたことで重心位置が低くなり、カメラの横揺れを軽減させるという効果もあります。


― ただ小さくすれば良いとはいかない中で、運用性を熟考し、スリム化するところやバランスを確保するところは一朝一夕には出来ない世界ですね。

日置:
細かいところですが、このくぼみは何のためか分かりますか?
 


― 意匠的なことですか?

日置:
意匠的な部分もありますが、ここは局マーク等のシールを貼り付けるスペースにしています。シールは手で触ったり、物と擦れたりすると剥がれてしまいます。そのため、シールの貼り付けは基本的には段落ちさせた面に貼るのが一般的です。局マーク等は局様によって大きさも形も違うため、このように大きなスペースを段落ちさせて確保しています。 ローアングルの時に、カメラマンはカメラを抱えて撮ることがあるのですが、しっかりとホールドするために、腕はカメラ側板にぴったりとくっつきます。くぼみがあることにより腕と側板の間に空間が出来き、シールと触れることがありません。普段の運用やカメラケースへの出し入れで、シール部を擦ることがないようにデザインされています。


HDカメラの経験を活かした改良

― HDカメラから大きく改良された点はありますか?

日置:
 
レンズコネクタですね。今までのほとんどのシステムカメラはカメラ前板の下側(レンズの下側)についていました。 しかし、レンズで隠れてしまいコネクタ部分が見えにくく、慣れていないとコネクタを挿すことが難しかったです。私も、入社当初はスムーズに挿せませんでした。お客様とお話するときも、若いカメラマンからは特に言われていた点です。そこで、今回はカメラ側板の上に配置しました。目視で確認できるため非常に挿しやすくなっています。これはユーザー様から非常に喜ばれています。

フロントスイッチを無くしたことも、大きく改良したことの1つです。 無くしていいの?と思われるかもしれませんが、フロントスイッチはサイドスイッチに統合しました。実は、これにより、先程お話したショルダーパットの位置を前にすることができました。サイドスイッチもシンプルにして、誤操作しないような配置、ボタン形状にしています。見なくても手の感覚でわかるようにしています。


様々な運用を想定した1つ1つのこだわり

― ユーザー様からはどのような反応をいただいていますか?

日置:
 
重量バランスやカメラ越しの視認性はご好評いただいています。お客様から驚かれることがあるのが、このリアタリーです。タリーとは、どのカメラが放送中かを演者やスタッフに知らせるランプです。リアタリーは主にスタッフに知らせるものなのですが、カメラの角度によっては見えなくなってしまいます。そこで、背面のスイッチの横にスイッチガードも兼ねて設置しました。横からも見えるようにガード部をくり貫いています。これで横からも下からも上からも確認することができます。クレーンでカメラが上方にあるときは、特に役立ちます。

また、見えないところですが、このカメラは静音性に優れています。実はFANが1つしか付いていないのです。


― 通常は何個も付いているのですか?

日置:
通常は、2~3個付いています。特に弊社のカメラは前後分かれた構造になっていますので、FAN1つというのはかなり困難でした。しかし、スタジオ内の撮影、特にドラマはこのFANの音が非常に気になります。そこで、FANを1つにして静音性を良くするために、熱流体シミュレーションを繰返し、熱をデザインしました。 カメラ内部の放熱は吸排気孔の位置や面積、FANの配置により空気の流れが大きく変わります。その流れをデザインして効率よく放熱させるのです。

 
この様に空気の流れを見ながら、FANを中央に1つだけ配置し、放熱させることに成功しました。 4KカメラはやはりHDより消費電力は高いのですが、FAN1つでHDカメラよりも静音性が良いカメラとなりました。その静音性に驚くお客さんもいらっしゃいます。もちろん、熱の問題もありません。


意外と知られていない機能

― 新機能ではないけど、意外と知られていない機能等ありますか?

日置:
 
側板下端のRET(他のカメラやオンエアの映像等、システム側からのリターンビデオを見るためのボタン)ですね。お客様から「どうしてここにあるのですか?」とよく聞かれます。 ローアングルのときに、ハンドルを持たずにカメラ下端を抱えるように持つことがあります。その際に親指でRETを操作できるように考え、配置しています。ローアングルの撮影方法は人によって様々なのですが、ハンドルも持つ方にはハンドルについているRETを、抱える方には側板RETを使っていただけるようデザインしています。 他には、大型のスタジオカメラには昔から光軸調整機能がついていますが、意外と知られていないかもしれません。これは、光学系をVとH(垂直/水平方向)で調整できるようになっています。 メカ的な機構で、このVとHをリニアに調整して光軸を合せることができます。基本的には出荷時に調整するのですが、使うレンズの固体差によって微妙にずれたときには、この機能を使えば、光軸はしっかりと合います。


最高の一瞬を切り出すために

― では最後に開発時に心がけていることを教えてください。

 
日置:
撮影のプロであるお客様が最高の一瞬を切り出すことができるように、職人魂すなわち技術を結集して作り上げていくことが務めだと考えています。モノ作りはもちろんのこと今後はコト作りにも魂を込めて、放送業界に新たなムーブメントを起こしたい、というのが私の想いです。
プロの方の体の一部として「思うように」使っていただけるように、私たちもプロで有り続けたいと考えています。


次回は少し違う角度から、UHK-430のこだわりの技術についてご紹介します。



Engineer Talks

  • Vol.1 ”放送用システムカメラ” について
  • Vol.3 ”多様な運用に寄り添うソフトウエア”について
  • Vol.4 ”次世代高速ビデオプロセッサエンジン AXII”について
  • Vol.5 ”若手エンジニアの挑戦”について
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